「美味しくて安心・安全」を合言葉に、京丹後市久美浜町で有機JAS米(※1)や特別栽培米(※2)、有機野菜などを栽培している株式会社エチエ農産。この地域に広がっている豊かな田畑には、コウノトリやサギがその上を気持ちよさそうに飛び交い、降りてきてはミミズやバッタをついばむ。エチエ農産は2011年にお米の有機JAS認定を取得し、自社の有機米「おおきに大地米(コシヒカリ)」を販売してきた。農薬を使う慣行栽培には無い苦労があり、毎年試行錯誤を繰り返し有機米を生産してきた代表取締役の越江 昭公さんに、今までの米作りやその想いについてお話を伺った。
タバコの葉の栽培から、有機米の栽培へ
越江さんが20代前半の頃は、別の仕事をしながら実家の農業を手伝っていたそうだが、その頃は当時日本での生産が全盛期を迎えていたタバコの葉を、3ヘクタールもの広さで栽培していた。「うちのタバコの畑では、植物の病気を防ぐために土壌にものすごい量の農薬を撒いていました。農薬の液を扱うときには防護服を着て散布していましたから…。少しでも吸うと涙が出て咳き込んで…農薬散布が嫌で嫌で、栽培自体を辞めたいと思っていたんです」と、当時を振り返る越江さん。
すると納品先だった企業がタバコの製造を辞めることになり、それと共にエチエ農産でのタバコ栽培も辞める運びになった。それきっかけに、米と野菜を栽培し始めた。「農薬が身体に悪いと身をもって知っていたからこそ、米や野菜は減農薬栽培で始めたんです。草取りや作物の病気対策等の世話は大変になったが、多くの農薬を散布するよりは断然良かったですね」と越江さん。
減農薬での米・野菜の栽培を行っていた中、平成19年、有機米の栽培を始めるきっかけとなった京丹後市主催の「トライアル農地 水稲有機栽培実証事業」に圃場の提供と管理担当として参加。安全で美味しい米づくりの指標とするための有機栽培実証田の検証が目的の事業で、京都吉兆総料理長 徳岡氏や栽培技術者が共に連携して実現したもの。その事業を継続していく中で、自社としても引き続き栽培していこうと決心し有機JASの認定を取得した。それから徐々に有機栽培の面積を広げていったのだが、無農薬での栽培は毎年苦労の連続だった。
無農薬での米の栽培は毎年トラブルの連続
有機米の栽培を始めた頃を振り返りながら、「初年度は稲が草に栄養を取られてしまい、手刈りするほどしか実らなかったんです」と越江さん。稲が病気にかからないように間隔を開けて植えると、日光が良く当たりすぎて草がたくさん生えてしまう。根が張りにくく、強く育たない。根付きを改良しても、その芽をスズメに食べられる。「毎年何かが起こるんですよね。今年は浮草が田んぼ一面に発生して、田植え前に全部取るのが大変でしたよ」と、試行錯誤してきたことを思い出しながらも越江さんはどこか楽しそうだ。
前年のトラブルを翌年に改善することで、地道に知識と経験を蓄積してきた越江さん。苦労はあるが安心なものを届けられるため無農薬で作り始めて良かったと語る。今年のお米の出来について聞くと、「今年は身の質も良く、量も取れそうで良かったです」と笑顔を浮かべた。
地域の米農家との協力。受け継いできた圃場
エチエ農産では、同地域の契約米農家さんにも同じ手法で特別栽培米を作ってもらい、それを買い取り・販売している。農薬を少なくすると手間が増えるが、依頼先の農家さんたちは減農薬を快く理解・賛同し、協力してくれたそう。今もコミュニケーションをよく取っていて、獣害予防の電気柵の設置等も協力して行なっている。
エチエ農産の近所の米農家は昔は13軒ほどあったが、後継者がいない等の理由から現在ではおよそ半分の7軒となってしまった。地域全体での栽培面積はそのまま維持しているが、後継ぎをしたのは越江さんだけだという。人手が少なくなっていくが、「この圃場の土地は代々受け継がれているものだし、無農薬や減農薬での栽培を続けてきたのだから、この先も守っていきたい。それに、当社の従業員のことももちろん大切ですからね」と越江さんは語る。
粘り気があり甘味のあるエチエ農産のお米を、ぜひ食卓で。
エチエ農産が育てる「京都丹後産コシヒカリ」は、平成26年に通算12回目となる食味ランキングの「特A」評価を取得している実績がある。粒が立ち粘り気のある食べ応えと甘味のある味は地元の人々からも「美味しい」と愛されていて、毎年稲刈りの季節が来ると新米を食べられるのを心待ちにしている。
この白ご飯に合うものは何ですかと尋ねると、越江さんの奥様の絵梨さんが「そんな特別なものじゃないよ」と恥ずかし気に言いながら、自家栽培の聖護院大根で作った「切り干し大根のはりはり漬け」を持ってきてくれた。甘辛い味付けとシャキッとした歯応えがなんとも白ご飯に合う。野菜もお米も手作りで食べられるなんて、なんとも特別で贅沢な食卓だ。
「子どもからお年寄りまで、安心して食べられる美味しいお米や野菜をこれからも作っていく。ぜひ楽しみにしていてほしい」と、微笑む越江さん。手間暇かけて作られた想いのこもったお米を、ぜひ家族で食べてみてほしい。ご飯の時間が、きっといつもより特別に感じられることに違いない。
(※1)有機農産物の生産方法の基準
- 堆肥等による土作りを行い、播種・植付け前2年以上及び栽培中に(多年生作物の場合は収穫前3年以上)、原則として化学的肥料及び農薬は使用しないこと
- 遺伝子組換え種苗は使用しないこと
引用元:『有機食品の検査認証制度について』農林水産省ホームページ
(※2)
- 当該農産物の生産過程等における節減対象農薬の使用回数が、 慣行レベルの5割以下であること。
- 当該農産物の生産過程等において使用される化学肥料の窒素成 分量が、慣行レベルの5割以下であること。
引用元:『特別栽培農産物に係る表示ガイドライン』農林水産省ホームページ